大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋地方裁判所 平成11年(ワ)1081号 判決 2000年9月20日

原告

水田元

ほか一名

被告

光岡哲郎

ほか二名

主文

一  被告らは、連帯して、原告らに対し、各一九八万九五八八円及びこれに対する平成八年一二月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを八分し、その七を原告らの負担とし、その余を被告らの負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告らは、連帯して、原告らに対し、二九六一万四五六一円及びこれに対する平成八年一二月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  本件は、左記二1の交通事故(三件の連鎖的事故)の発生を理由として、これにより死亡した訴外水田尚孝(以下「被害者」という。)の両親である原告らが、被告らに対し民法七〇九条、七一九条に基づき、被告らの共同不法行為であるとして連帯して損害賠償を履行するよう請求した事案である。

二  争いのない事実及び括弧内の証拠により容易に認められる事実

1  本件事故(次の第一ないし第三事故を総称して「本件事故」という。甲一号証、一三号証、二〇号証、弁論の全趣旨)

(一) 日時 平成八年一二月二七日午前二時四二分ころ

(二) 場所 愛知県西加茂郡三好町大字打越字上池田八八番地先道路上

(三) 加害車両一 被告光岡哲郎(以下「被告光岡」という。)運転の普通乗用自動車(三河五三ひ五四〇四)

(四) 加害車両二 被告蟹江光義(以下「被告蟹江」という。)運転の普通貨物自動車(尾張小牧一一う六一七六)

(五) 加害車両三 被告工藤寿春(以下「被告工藤」という。)運転の普通乗用自動車(三河五三ほ四六六四)

(六) 被害車両 被害者運転の自動二輪車(名古屋ね五六五一)

(七) 態様 右場所付近の道路(国道一五三号線バイパス道路、以下「本件道路」という。)を西から東に進行していた加害車両一は、本件道路上に段ボール箱様の障害物を発見し、これを避けようとして左側防護壁に接触し、さらに対向車線に飛び出し右側防護壁にも接触する自損事故を起こした後、対向車線上に対向車と向かい合う形で停止したところ(以下「本件自損事故」という。)、ほどなくして右対向車線上を東から西に進行してきた被害車両が同車両に衝突し(以下「第一事故」という。)、被害者は右衝突地点から約三七・五メートル西側の反対車線(東行車線)中央線付近にはね飛ばされたが、折から右東行車線を西から東に進行してきた加害車両二が被害者に衝突、轢過し(以下「第二事故」という。)、さらに後続の加害車両三が被害者を車体下部に引っかけて引きずり轢過した(以下「第三事故」という。)。

2  被害者の死亡及び相続

一 被害者は、同日午前四時五分、本件事故にもとづく外傷性ショックにより死亡した(甲二号証、一七号証)。

二 原告らは、被害者の両親であり、被害者に生じた損害賠償請求権を法定相続分の割合に従い、相続により取得した(甲三号証、なお、被告工藤との間では争いがない。)。

3  損害の填補(既払額)

原告らは自賠責保険から合計四〇九七万一一二〇円の支払を受けた(弁論の全趣旨、なお、被告光岡及び被告工藤との間では争いがない。)。

三  争点及び当事者の主張

1  被告らの責任

(一) 被告光岡の責任

(1) 原告らの主張

被告光岡は本件自損事故の後、加害車両一が反対車線をふさぐ形で停止しているのであるからこのような場合、ハザードランプを点灯するのは勿論、それだけでなく、発煙筒を焚くかあるいは停止表示機材を設置する等、進行してくる車両に対し危険を知らせるため適切な措置を講ずべき注意義務があるのにこれを怠り、なんら危険回避措置を講じなかった過失により(徒手にて合図をしたとしても有効な危険回避措置とはいえない。)、折から加害車両一に気付かずに進行してきた被害車両をして加害車両一に衝突させ、そして第二、第三事故を招来し、それらの結果、被害者を死亡させた。

(2) 被告光岡の認否、反論

被告光岡は発煙筒を焚いたり停止表示機材を設置しなかったが、それは本件自損事故の直後から第一事故まで反対車線を常に車両が走行してくる状態であり、被告光岡は一人で徒手誘導をしていたため車内に戻るいとまが無く、また、停止した加害車両一から液体が漏れだしており、発煙筒からガソリン等に引火するおそれがあったからである。そのかわり、被告光岡はハザードランプを点灯し、かつ進行してくる車両に対し徒手にて合図し、危険回避に十分な措置を講じており、過失はない。

仮に、同被告になんらかの過失が認められるとしても、被害車両は規制速度を五〇キロメートルも超過した時速約一〇〇キロメートルの速度で、かつ前方注視を欠いた状態で進行し、回避、減速等することなく右加害車両一に衝突したのであって、被害者にこそ一方的な過失があるから、被告光岡は免責されるべきである。

さらに右免責の主張が認められなかったとしても、右のとおり被害者にも過失があり、その範囲で過失相殺がなさるべきである。

(二) 被告蟹江の責任

(1) 原告らの主張

本件道路は街路灯がなく夜間はかなり暗いが、ほぼ直線に近く見通しが良く、時速五〇キロメートルの速度規制がしかれていたのであるから、被告蟹江は、このような場合、道路上に障害物その他の異常を発見した際に事故を回避すべく停止、減速、回避その他必要な措置を講ずることができるように、規制速度を遵守しかつ前方を注視して進路の安全を十分確認して走行すべき注意義務があったのにこれを怠り、前方を注視せず漫然時速約七〇ないし八〇キロメートルの速度で進行した過失により、第一事故の後、本件道路の同被告の走行車線中央線付近に横臥していた被害者を直近になってはじめて認め、減速等の措置を講ずる間もなく、同人を加害車両二で衝突、轢過したものである。

(2) 被告蟹江は、公示送達による適式の呼出を受けたが、本件口頭弁論期日に出頭しない。

(三) 被告工藤の責任

(1) 原告らの主張

本件道路は街路灯がなく夜間はかなり暗いが、ほぼ直線に近く見通しが良く、時速五〇キロメートルの速度規制がしかれていたのであるから、被告工藤は、このような場合、道路上に障害物その他の異常を発見した際に事故を回避すべく停止、減速、回避その他必要な措置を講ずることができるように、規制速度を遵守しかつ前方を注視して進路の安全を十分確認して走行すべき注意義務があったのにこれを怠り、前方を注視せず漫然時速約七〇ないし八〇キロメートルの速度で進行した過失により、第二事故の後、本件道路の同被告の走行車線上に横臥していた被害者を直近になってはじめて認め、減速等の措置はしたものの間に合わず、同人を加害車両三の下部で引っかけて引きずり轢過し、死亡させた。

(2) 被告工藤の認否、反論

本件道路が夜間かなり暗かったこと、見通しの良い道路であったこと、時速五〇キロの速度規制がしかれていたことは認めるが、被告工藤が前方を注視せず漫然時速八〇キロメートルもの高速で走行していた点は否認する。確かに規制速度は超過していたがせいぜい時速七〇キロメートルを超えるか超えないかといった程度であり、被告工藤は前方を注視して運転しており、本件道路上に障害物らしきものを発見し、減速したものの、本件道路が暗かったことから右障害物が被害者であるとは思わなかったものであるうえ、右障害物を回避しようとしたところ、進路右方には被害車両と加害車両一が停止しており、左方は崖のようなところであったため、右障害物を跨ぐ形でしか回避行為がとれなかったものであり、過失はない。

また、原告らは被告工藤が規制速度を遵守しかつ前方を注視していれば事故は回避できた旨主張するが、本件道路上は夜間かなり暗くかつ被害者は黒い革のつなぎを着用していたため、路上に人が横たわっていることが視認できるのはロービームで約二六・八メートルが限界であるところ、時速五〇キロメートルで走行した場合の制動距離が通常約三〇メートルとされていることからすれば、たとえ右視認距離の限界においてただちに被害者を発見したとしても、衝突せずに手前で停止することは不可能かあるいは著しく困難であるから、やはり過失はないし、仮にあっても非常に軽微な程度に留まるので、被告工藤はその限度でしか責任を負わない。

さらに、第一事故が非常に激甚なものであり、被害者はさらにその後第二事故において加害車両二にも轢過されていることから、第三事故の前に既に致命傷を負っていたのであり、第三事故によって被害者が死亡したとはいえない。

2  損害額

(原告らの主張)

(1) 死亡による逸失利益 三六七九万八三四七円

被害者は、死亡当時日産プリンス名古屋販売株式会社に勤務しており、平成九年には三〇八万八一一九円の年収を得ることが予想されるのでこれを基礎収入とし、生活費控除率を五割、就労可能年数を四七年間(六七歳まで)として、その逸失利益を新ホフマン式計算により死亡時の一時払額に換算すると三六七九万八三四七円である。

(2) 治療費及び文書料 二万六六四〇円

(3) 葬儀費用 五七六万〇六九四円

原告らの家では被害者の葬儀は初の仏事であったから墓碑建立の必要があり、葬儀費とあわせて五七六万六九四円を支出したものである。

(4) 死亡慰謝料 二五〇〇万円

被害者は本件事故に遭った平成八年の春から希望に満ちた社会人として働きはじめた矢先であり、同人に対する慰謝料としては、二五〇〇万円を下らない。

(5) 合計六七五八万五六八一円

(6) 損益相殺

原告らが既に支払を受けた前記既払額を控除すると、損害残額は、二六六一万四五六一円となる。

(7) 原告らの取得額

原告らが法定相続分の割合にしたがって相続により取得したから、原告らの取得額は一三三〇万七二八〇円となる(円未満切り捨て)。

(8) 弁護士費用 各一五〇万円

第三争点に対する判断

一  争点(被告らの責任)について

1  証拠(甲一〇号証、一二ないし一六号証、一八ないし二三号証、二五ないし二八号証、乙一ないし三号証、原告水田元、被告光岡、被告工藤各本人)及び弁論の全趣旨によれば、前記争いのない事実等に加えて以下の事実が認められ、これに反する乙三号証の供述記載部分及び被告光岡本人の供述部分はいずれも採用できない。

本件道路は、片側一車線(片側の車道の幅員が約三・五メートル)の対面通行の幹線道路であり、本件事故場所付近において、最高速度は五〇キロメートル毎時に制限され、追越しのための対向車線へのはみ出し通行及び駐車が禁止されているほか、原動機付自転車、小型特殊自動車、軽車両、歩行者については通行禁止となっているが、自動車専用道路ではない。

本件道路は、本件事故場所付近で西から東に向かって(被告ら三名の進行方向から見て)軽い上り坂で、かつ、右に緩いカーブになっているが、ほぼ直線に近く、見通しは良いものの、照明灯はなく、夜間は暗い。

本件道路を西から東に時速約一〇〇キロメートルで直進していた加害車両一は、前同日午前二時三五分ころ、本件道路上に段ボール箱様の障害物を発見し、これを避けようとしてハンドルを急転把したところ左側防護壁に接触し、さらに対向車線に飛び出し右側防護壁にも接触する本件自損事故を起こした後、対向車線上に対向車と向かい合う形で停止した。右事故により、エンジンは停止し、再起動もできず、被告光岡は車を移動することをあきらめてハザードランプのスイッチをつけ、車外に出た。ところが、本件自損事故により、ライトは消え、ハザードランプも点灯しなかった。しばらくして加害車両一の停止していた車線上を訴外村上坦司の運転するタクシーが進行してきたところ、加害車両一に気付いてその直前でようやく停止したが、加害車両一の手前に停止標示機材は設置されておらず、ライト等も点灯していなかったことから、右村上は被告光岡に対し「標示板くらい出しておけ」と注意した。被告光岡は右村上に警察への通報を依頼し、自らは停止標示機材を設置することも発煙筒を焚くことはしないで、走行してくる車両に手を挙げて危険を知らせようとした。

本件自損事故から約七分後の午前二時四二分ころ、被害車両が本件道路を時速約一〇〇キロメートルで東から西に直進してきたので、被告光岡は手を挙げて知らせようとしたが、気付かせるには至らず、被害車両は八・四メートルのスリップ痕を印象しながら加害車両一に衝突し、その衝撃で加害車両一は約五・五メートル押し戻され、他方、被害者は右衝突地点から約三七・五メートル西側の対向車線(東方向進行車線)中央線付近にはね飛ばされた。そこで被告光岡は被害者の方へ駆け寄ったところ、東進中の加害車両二の前照灯が見えたため、さらに同車両に向かって駆け寄った。

そのころ、被告蟹江は、時速約七〇キロメートルの速度で加害車両二を走行して本件場所にさしかかり、最初に右前方の対向車線で停止している加害車両一を認めたが、気にとめずに進行したところ、次に前方路上で手を振って合図をしている被告光岡の姿を認めたものの、危険を知らせようとしているとは気付かず、さらに三三・一メートル進んだところ、一三メートル先の路上に被害者を発見したが、もはや停止できない距離であると判断し、これを跨いで通過しようとしたが果たせず、被害者に衝突し、被害者を約一五メートル引きずり、その後さらに約一一七メートル進んで停止した。第一事故から第二事故まで一分も経過していなかった。

そのころ、被告工藤は、加害車両二の後続車として本件道路を時速七〇キロメートルで走行していたところ、第二事故により被害者が引きずられて倒れていた場所から約二七・八メートル手前で路上に被害者を発見したものの、当初人とは気付かず、続いてその右前方の中央線付近にバイクが転倒しているのを認め、人が倒れているのかも知れないと思い、ブレーキを踏んだが、もはや停止できる距離でもなく、かつ、右にはバイクが転倒し、左は路肩の先が崖のようになっていたことから、被害者を跨ぐ形で回避しようと考え、一旦ブレーキペダルから足を離した後、そのまま路上に横臥した被害者の上方を通過しようとしたが果たせず、被害者を加害車両三で引きずったまま約三六メートル進行して停止した。第三事故も第二事故から一分を経過していないうちに発生したものであった。

2  右認定に反し、被告光岡は、ハザードランプは点灯したと主張し、これに沿う証拠(甲二七号証、乙二ないし四号証、被告光岡本人)がある。しかしながら、ハザードランプが点灯したかどうかの供述が曖昧であるうえ、被告光岡自身、本件事故後の取調べにおいて、警察官に対する供述調書(甲二二号証)中には全くその点を述べていないこと、甲一九号証(電気系統をやられたのか全くライト等の点灯が無かったため、右村上は被告光岡に対し「標示板くらい出しておけ」と叱ったとする部分)及びハザードランプは見えなかったとする被告工藤本人尋問の結果に照らして採用できない。

3  被告光岡の責任

前記のとおり、被告光岡は規制速度を超える時速約一〇〇キロメートルで走行したことにより、運転操作を誤り、本件自損事故を引き起こし、本件道路上に車両の進行を妨げるような状態で加害車両を停止させたものであるところ、証拠(甲一〇号証、一六号証、乙一号証、二号証)によれば、加害車両一は黒色であり、かつ、本件自損事故により前部が破損してお辞儀をするような状態になって停車していたことが認められ、前記のとおり、本件事故場所付近はほぼ直線に近く、見通しは良いものの、照明灯はなく、夜間は暗いところ、ハザードランプを含め、全てのライトが点灯していなかったのであるから、被告光岡としては、停止標示機材を設置するなどして本件道路を通行する車両に危険を知らせ、事故を回避する措置をとる義務があるのにこれを怠った過失が認められる(ハザードランプは点灯していなかったのであるが、もともと後続車に対する警告措置としてはそれだけで十分なものとはいえない。)。

被告光岡は、本件自損事故後、前記村上車両をはじめとして相次いで車が通りかかる状況であったから、一旦車に戻って停止標示機材や発煙筒などを取り出すことは著しく困難であり、また、停止車両から液体が漏れだしているのが見え、発煙筒を焚くことでガソリンに引火するおそれがあったから、発煙筒を焚かなかったのであり、過失はない旨主張し、その旨供述ないし供述記載するが(被告本人尋問、甲二二、二七号証)、右措置をとることが不可能ないし著しく困難であったとまで認めるには足りない。

また、被告光岡は、本件自損事故後加害車両一の前方(被害車両が進行してくる方向)に立ち、徒手誘導を行ったこと、本件自損事故から第一事故までの間に現場を一〇台前後の車両が通りかかったが、いずれも同人の徒手誘導により事故を回避できており、右徒手誘導は事故回避のため十分適切な措置であったと主張し、その旨供述ないし供述記載するが(被告本人尋問、甲二二、二七号証)、右徒手誘導が事故回避に十分な効果を挙げうることを認めるに足りる証拠はなく(前記のとおり、被告蟹江は徒手誘導は気付いたが、危険の合図と受け止めていなかったことが認められるし、被害者は別としても、前記村上は徒手誘導自体気付いていない。なお、被告光岡は上着を脱いで大きく振り回すまでの動作はしていない。)、被告光岡が本件において十分適切な事故回避措置を講じたということはできないのである。

4  被告蟹江の責任

前記のとおり、本件道路の本件現場付近においては、最高速度が時速五〇キロメートルに制限され、また、右現場付近はほぼ直線に近く見通しが良い反面、街路灯はなく夜間は暗いところ、甲一二、一四、一五、二〇号証、弁論の全趣旨によれば、同被告からの視認状況は、ロービームで約二八・八メートル、ハイビームで約五六・五メートル先の路上の物体がぼんやりと確認できる程度であったこと、本件事故当時の被害者の着衣は黒色の革つなぎライダー服で、ヘルメットも黒色であり、視認しにくい色であったことが認められる。

しかしながら、前記のとおり、被告蟹江は、規制速度を超える時速約七〇キロメートルの速度で加害車両二を走行して本件事故場所にさしかかり、最初に右前方の対向車線で停止している加害車両一を見たが、気にとめずに進行したところ、次に路上で手を振って合図をしている被告光岡の姿を認めたものの、危険を知らせようとしているとは気付かずに、さらに三三・一メートル進んだところ、そこで初めて一三メートル先の路上に被害者を発見したのであり、これを跨いで通過しようとしたが果たせず、被害者に衝突し、被害者を約一五メートル引きずり、その後さらに約一一七メートル進んで停止したのであるから、規制速度を遵守しかつ前方を注視する注意義務を怠った過失により被害者の発見が遅れたことは明らかである。

5  被告工藤の責任

前記のとおり、本件道路の本件現付近においては、最高速度が時速五〇キロメートルに制限され、また、右現場付近はほぼ直線に近く見通しが良い反面、街路灯はなく夜間は暗いところ、甲一二、一四、一五、二一号証、弁論の全趣旨によれば、同被告からの視認状況は、ロービームで約二六・八メートル、ハイビームで約六〇・五メートル先の路上の物体がぼんやりと確認できる程度であったこと、本件事故当時の被害者の着衣は黒色の革つなぎライダー服で、ヘルメットも黒色であり、視認しにくい色であったことが認められる。

しかしながら、前記のとおり、被告工藤は、加害車両二の後続車として本件道路を時速七〇キロメートルで走行していたが、第二事故により被害者が倒れていた場所から約二七・八メートル手前で路上に被害者を発見したものの、当初人とは気付かず、続いてその右前方の中央線付近にバイクが転倒しているのを認め、人が倒れているのかも知れないと思い、ブレーキを踏んだが、もはや停止できる距離でもなく、かつ、右にはバイクが転倒し、左は路肩の先が崖のようになっていたことから、右物体を跨ぐ形で回避しようと考え、一旦ブレーキを離した後、そのまま路上に横臥した被害者の上方を自車で通過しようとしたが果たせず、被害者を加害車両三で引きずったまま約三六メートル進行して停止したのであるから、規制速度を遵守しかつ前方を注視する注意義務を怠った過失により被害者の発見が遅れたことが認められる。

被告工藤は、時速五〇キロメートルで走行した場合の制動距離が通常約三〇メートルとされていることからすれば、たとえ規制速度を守って走行し、右視認距離の限界においてただちに被害者を発見したとしても、衝突せずに手前で停止することは不可能かあるいは著しく困難であったから同被告に過失は無い旨主張する。しかしながら、時速五〇キロメートルで本件道路を走行した場合の制動距離が二六・八メートル以上ないしは約三〇メートルであることを認めるに足りる証拠はなく、却って、甲一三号証によれば、本件事故当時、本件道路の路面は乾燥していたことが認められ、かつ、前記のとおり、同被告の進行方向からは軽い上り坂であることからすると、二六・八メートル未満の距離で制動できると推認され、また、仮に衝突が避けられないとしても、きわめて低速になっているはずであるから、その衝突の衝撃はよほど小さいものになると推認される。また、本件現場付近道路は自動車専用道路ではなく、人が路上に横臥している事態が全く予想されないとまではいえない。そうすると、本件現場付近道路において前方を注視しかつ規制速度を遵守して走行していれば本件第三事故を回避することは十分可能であったということができ、右被告工藤の主張は理由がない。

6  死の結果との因果関係

これまで認定した事実に加え、甲二号証、一〇号証、一七号証によれば、第三事故後、被害者はレスキュー隊等により加害車両三から引き離され、救急車によって病院に搬送されたが、前同日の午前四時五分に死亡したこと、第三事故当時、被害者は生存していたこと、第一事故、第二事故及び第三事故のいずれも被害者に対して相当大きな衝撃を与えたものであることが認められるが、他方で、第二、第三事故当時、被害者が既に瀕死の重傷を負っていたことを認めるに足りる証拠はないから、死亡という損害が第一事故、第二事故及び第三事故のいずれによって生じたものかを分別することは困難である。そうすると、第三事故と被害者の死亡との間には因果関係は事実上推定され、第三事故によって被害者が死亡したとはいえないとする被告工藤の主張は理由がない(なお、次に認定するとおり、本件では、被告らについて民法七一九条一項前段の共同不法行為が成立するので、その点からも死亡による損害について連帯して損害賠償の責に任ずることになる。)。

7  被告光岡、同蟹江、同工藤の共同不法行為

これまで認定した事実によれば、被告光岡、同蟹江、および同工藤のいずれにも過失があり、かつ、各行為は時間的場所的に近接しているうえ、それぞれの行為が順次直列的な因果的連関をなしており、第一事故、第二事故及び第三事故が社会通念上は連続受傷による一箇の死亡事故と評価しうるものであり、客観的に関連共同しているというべきであるから、被告らの各行為は共同不法行為の関係に立ち、民法七一九条一項前段により、被告らは、原告らに対し、連帯して損害賠償の責に任ずることになる。

被告工藤は仮に自己に過失が認められるにしてもその程度は他に比べて非常に軽微であるから被告工藤はその限度でしか責任を負わない旨主張するが、右のとおり、被告工藤は他の被告らと連帯して損害賠償の責に任ずることになるから、本件においては右主張自体失当である。

8  過失相殺

まず、第一事故について検討するに、前記認定のとおり、被害車両は本件道路上を時速約一〇〇キロメートルの速度で走行していたが、前記スリップ痕が八・四メートルであることからすると、制動反応時間による空走距離を考慮しても、直近に至るまで本件道路上に放置された加害車両一の存在に気付かなかったことが認められる。第一事故は通常の駐停車車両に衝突した場合とは趣を異にするのであるが、車両の運転者としては、規制速度を遵守すること及び進行方向を注視することは基本的な義務であるから、被害者にも第一事故に際し、規制速度を遵守し、かつ前方を注視して走行する義務を怠った過失が認められる。そして1及び3で認定した事実を総合すれば、第一事故の発生についての被告光岡と被害者の過失の割合は、同被告六割、被害者四割と評価するのが相当である。

次に、第二事故及び第三事故について検討する。被害者は第一事故ないし第二事故により本件道路上に横臥していたのであるが、本件事故の態様からすると、意識を失っていたか動くことができなかったものと推認されること、前記のとおり第一事故について被害者にも過失があること、そして1、4及び5で認定した事実からすると、被告蟹江及び被告工藤の過失を個々に評価すれば、その割合は六割に満たないものと考えられる。しかしながら、被害者が本件道路上に横臥していたのは他の共同不法行為者の先行行為によるものであるから、被告ら毎に過失相殺すべきではなく、共同不法行為者全員の過失と被害者の過失とを対比して過失相殺すべきであり(被告ら間の責任割合は事後の求償の問題として捉えるべきである。)、本件事故について、被害者四割、被告ら六割として評価するのが相当である。

二  争点2(損害額)について

1  認定した基礎事実

前記争いのない事実等に加え、甲四号証、一八号証、二八号証、原告水田元本人尋問の結果によれば、被害者は昭和五一年三月二九日生まれで、本件事故当時、二〇歳の健康な男子で、原告らと弟との四人家族であったこと、そして、被害者は東山工業高校を率業後、自動車整備の専門学校に学んで、整備士の資格を得、平成八年四月、日産プリンス名古屋販売株式会社に入社し、同年(ただし、四月から一二月までの分)は二〇八万一四一七円の給与収入を得、平成九年は三〇八万八一一九円の給与収入を得ることが予想されていたことが認められる。

2  逸失利益(請求額三六七九万八三四七円) 五〇九九万〇五二〇円

右認定事実および弁論の全趣旨によれば、被害者の前記収入は平成八年賃金センサス産業計・企業規模計・男子労働者・学歴計・年齢別二〇才から二三才の平均賃金額三二六万一九〇〇円とそれほど差異はないから、被害者は、事故後就労可能期間である四七年間は平成八年賃金センサス産業計・企業規模計・男子労働者・学歴計・全年齢平均賃金額である年額五六七万一六〇〇円を収入として得ることができたものと推認することができ、右期間の生活費として、五割を控除し、右逸失利益の現価を計算すると、適用すべきライプニッツ係数は四七年の係数となるので、次の計算式のとおり、右金額となる。

5,671,600×(1-0.5)×17.981=50,900,520

3  治療費等(請求額二万六六四〇円) 二万六六四〇円

甲五号証によれば、被害者の診察料として一万八三二〇円を、甲六の一、二号証によれば文書料として八三二〇円をそれぞれ要し、合計して右金額を要したことが認められる。

4  葬儀費用(請求額五七六万六九四円) 一三〇万〇〇〇〇円

甲七の一ないし四号証、原告水田元本人によれば、原告らは被害者の葬儀を行うために相当額の費用を支出したこと、また甲八の一ないし四号証、原告水田元本人によれば、原告らは被害者の墓碑建立および墓地使用のために相当額の費用を支出したことが認められるところ、被害者の年齢、生活状況等に照らすと、本件事故と相当因果関係のある葬儀等費用相当の損害額は右金額が相当である。

5  慰謝料(請求額二五〇〇万〇〇〇〇円) 二二〇〇万〇〇〇〇円

右に認定した被害者の年齢、生活状況、本件事故態様等、本件における一切の事情を斟酌すれば、被害者の慰謝料としては右金額が相当である。

6  以上から、本件事故によって被害者に生じた損害額(弁護士費用を除く)の合計は七四三一万七一六〇円となる。

三  過失相殺による減額及び損害の填補等

前記認定、判断した被害者に生じた損害額(弁護士費用を除く)の合計額である七四三一万七一六〇円から前記認定の被害者の過失割合に従い四〇パーセントを減額すると、被告らが賠償すべき損害額は、四四五九万〇二九六円となるが、原告らが、被害者に生じた損害の填補として、四〇九七万一一二〇円の支払を受けていることは当事者間に争いがないから、これらを控除すると損害残額は三六一万九一七六円となるところ、前記のとおり、原告らは、被害者に生じた損害賠償請求権を法定相続分の割合にしたがって相続により取得したから、原告らが取得した損害額は各一八〇万九五八八円となる。

四  弁護士費用(請求額三〇〇万円) 各一八万〇〇〇〇円

本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当の損害額は、右金額と認めるのが相当である。

五  以上のとおりであり、被告らに対する原告らの請求は各一九八万九五八八円及びこれに対する不法行為の日である平成八年一二月二七日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが、その余の請求は理由がないから、主文のとおり判決する。

(裁判官 野田弘明)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例